2006年秋に高等学校で世界史未履修問題が表面化して以来、高等学校の歴史教育のあり方をめぐって様々な意見が表明されてきました。その中では、大学入試が高等学校の歴史教育に大きな影響を及ぼしているため、大学と高等学校の教員が一緒に率直な意見交換ができる場の必要性を指摘する意見も多くみられました。
2014年夏には、日本学術会議高校歴史教育分科会、日本歴史学協会歴史教育特別委員会、高等学校歴史教育研究会の3者による高等学校の歴史教育と大学入試に関係するアンケート調査が実施され、2ケ月という短期間であったにも拘わらず、700名近い回答が寄せられました。その3分の2は高校教員、3分の1は大学教員でした。つまり、高等学校や大学の歴史教育のあり方に関して、高等学校と大学の壁を超えて多くの方が強い関心を寄せられていることが明らかになったと思います。このアンケート結果は多くのマスコミでも詳しく報道され、より広い社会的関心も呼んだと思います。
その上、2019年からは「高等学校基礎学力テスト」が、2020年にはセンター試験に代わる「大学入学希望者学力評価テスト」の導入が予定され、各大学の個別試験の多様化なども提案されています。また、初等中等教育の教育課程に関しては、全教科におけるアクティヴ・ラーニングの実施や「日本史の必修化の扱いなど地理歴史科の在り方」の検討が、2016年度中に行われるといわれています。まさに、これから数年間で高校教育のみならず、大学入試の大きな改革が予想されるだけに、歴史教育分野においても、高等学校や大学の壁を超えた討論によってより建設的な案の検討が必要になると思います。また、大学教員の間でも、専門的に歴史研究をしている研究者が多い人文系と、教育現場の状況に詳しい研究者が多い教育系との交流の必要性が以前から指摘されてきました。
このように高等学校と大学間、大学内の学部間などの壁を超えた対話の必要性が一層高まる一方で、近年、全国各地では高大連携により歴史教育の改善をめざす研究会が発足し、高校教員むけの夏期セミナーを実施したり、教育実践の交流を行ってきています。これらの成果を全国的に共有することも重要になっていると思います。勿論、歴史教育に関してはすでに多くの全国的学会や研究会が存在していますが、それらは高校教員と大学教員が別々に参加している場合が多く、高大連携の全国的な研究会を立ち上げる意義は十分あると考えています。その際、新しい全国研究会は、各地の研究会の成果を年1回の大会やインターネットなどを通じて、交流し、成果を共有するとともに、必要に応じて改革案の提案を行うなどの形で、各地の地域別研究会と協力関係をもってゆくことが大切と思います。
そこで、この機会に大学や高等学校の壁を超えた「高大連携歴史教育研究会」を発足させ、歴史教育実践の交流や意見交換を恒常化させ、必要な改革提言をまとめていったらどうかと考えました。具体的な課題としては、①高等学校の世界史・日本史教科書改革と思考力育成型授業のあり方、②各地の教育実践や史料集作成などの交流とデータベース構築、③高等学校における歴史系新科目のあり方、④大学入試・高校新テストなどの検討や歴史系出題のあり方、⑤大学における歴史系の教養教育や教員養成課程のあり方、などが考えられます。これらの課題ごとに部会を設置し、意見交換を進めていったらどうかと考えています。また、近年は歴史教育の分野でも諸外国との国際交流が活発になっていますので、この研究会でも国際交流を重視する必要があると考えています。
いろいろご多用とは思いますが、ぜひこの「高大連携歴史教育研究会」の結成に賛同いただき、参加してくださるように心から呼びかける次第です。